聖女マルガレタ

(Hand 1)

412 long lines; ff. 16rb - 21ra


   七つの大罪を犯し、
   慈悲に触れたいと思う者はすべて、
   貴方たちに罪を償うための知性を
   お与えになったキリストを信じています。
   さあ、お聞きなさい。皆さんは
   人々が聖女マルガレタと呼んでいる
   一人の乙女の伝記を、美しく優しい
   言葉でお聞きになれるでしょう。          4

   私が皆さんにお話しする通り、
   彼女の父親は祭司長でした。
   彼はアンティオキアの生まれで、
   あの誤った宗教を信じていました。
   彼の心は軟弱であり、
   信仰はぐらついていましたが、
   昼も夜も、ものも言わず、
   口もきけない偶像を拝んでいました。       8

   彼の名はテオドススと言いました。
   彼は神を信じておらず、
   造られた両手を持つ誤った
   神々を信じていました。
   彼の行為はよこしまで、
   思考も不十分でした。
   そして絶えずキリスト教を
   滅ぼそうと思っていました。          12

   国王と王妃が
   一緒に暮らしていた時、
   二人の間に娘の
   マルガレタが生まれました。
   彼女はその後、イエス・キリストを信じ、
   大きな悩みを抱えました。
   そしてとても美しい彼女の身体は
   その後、大きな苦しみを味わったのです。    16

   王妃が身籠っていた時、
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
      [ 11行欠ける]
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 
   
   
   それから王妃は彼女が不幸な女に
   なったという知らせを聞きました。       24

   マルガレタが生まれるや否や、
   彼女の母親はとても悲しみました。
   彼女の父親が彼女を殺すよう
   命じたからです。
   母親は子供の命を助け、
   苦しみから救い出そうと思い、
   とても密かに、そして静かに
   彼女をアジアへ送ったのです。         28

   その子供は、面倒を見るため
   アジアへ連れて来られました。
   マルガレタは成年に達するや、
   本に向かわされました。
   彼女の傍にいた友人たちは
   目を覚ましている時はいつも
   マルガレタがどのように祈っているか、
   気をつけて見ていました。           32

   彼女の世話をやいた乳母は
   熱心に彼女の面倒を見ました。
   彼女が住んでいた家の者たちも
   みなとても彼女を愛しました。
   彼女は物心がつくや否や
   罪をひどく憎むようになり、
   乳母は彼女をイエス・キリストへ導き、
   彼女の人生を始めさせました。         36

   その乙女が
   十五歳になるや否や、
   彼女は野原で
   乳母の羊の番をしました。
   彼女と一緒にいた友人たちは
   彼女がどのようにして
   一切を支配されるイエスに
   祈りを捧げるか熱心に見つめました。      40

   私たちが聞いているところでは、
   アンティオキアとアジアの、
   命を与えたり、殺したりする
   領主の名はオリブリウスと言い、
   昼でも夜でも、地獄のきたない
   悪魔たちに仕えていました。
   そしてイエス・キリストを信じる者たちを
   みんな殺そうと思いました。          44

   アンティオキアからアジアに向かって
   十と五マイル以内にいる    ? 
   すべてのキリスト教徒を殺し、
   命を奪おうと考えたのです。
   彼らは娘のマルガレタが
   羊たちを追い立てるのを見ました。
   オリブリウスは彼女の美しさの故に
   ぜひ彼女を妻にしたいと望みました。      48

   彼は自分の騎士たちに言いました。
   「あそこに美しい娘が見える。
   彼女を馬に投げ上げよ。
   余が彼女を連れて行く。
   もし彼女は高貴な家柄の出であると
   親族から聞いて知ったならば、
   彼女を余が知っているすべての
   女たちの中で一番にしてやろう。        52

   そしてたとえ彼女が奴隷の生まれであった
   としても、あのたいした美しさ故、
   彼女が結婚を手に入れられぬ
   ということは決してあるまい。
   余が彼女に高価な絹織物や
   サテンの服を着せてやろう。
   彼女を余の愛人にし、
   黄金から頭飾りまで与えよう」         56

   召使いたちは彼に命じられた通り
   娘のマルガレタの所へ行きました、
   彼女が昼間、通りの傍で
   乳母の羊の番をしている所へ。
   彼らは彼女に多くのことを申し出、
   それ以上のものを約束しました。
   しかし、彼女は心の中の思いを
   捨てようとはしませんでした。         60

   召使いたちは、使いの用向きを
   偽るつもりはありませんでした。
   「娘よ、我々はお前がとても満足しそう
   なことを言っているのだよ。
   オリブリウス様は豊かな
   アンティオキアの領主で、
   その方がお前を妻にと望んでおられるのだ。
   お前を騙そうとは考えておられぬ」       64 

   その時、稲光のように輝く
   娘のマルガレタは
   とても穏やかな声で
   彼らに返答しました。
   「私は天のイエス・キリスト様に
   私の処女を捧げました。
   もし思し召しであれば、それをお考え下さい、
   神の七つのお名前のために。          68

   我が主イエス・キリスト様、
   私は貴方の許へ走りました。
   貴方には始まりはありませんでしたし、
   終わりも決してないでしょう。
   もし思し召しでありますならば、
   私に貴方の天使をお送り下さい。
   この下劣なサラセン人たちから
   この身を守ることが出来ません。        72

   私は自分の親族を、第九世代まで
   すべて捨て去りました。
   私の主、イエス・キリスト様、
   私は貴方にこの身を捧げました。
   だから貴方のためなら喜んで
   殺されるでしょう。
   この狗たちに取り囲まれ、
   私は逃げることが出来ません」         76

   召使いたちは戻って来て
   彼女の言ったことをみな報告しました。
   「殿、彼女は殿の力をサンザシの実
   ほども気にかけておりません。
   彼女はイエス・キリストに身を捧げ、
   彼に守ってもらうつもりです。
   だから殿が彼女に何をなさっても
   彼女には恐れるものがないのです」       80

   その時、オリブリウスは言いました ――
   太陽と月が彼を覆いますように!
   「余のすべての召使いには
   役に立つ者は一人もおらぬ。
   彼女を余の前に連れて参れ。
   余がすぐさま彼女の考えを変えてやろう。
   正午までに三度、余の神を
   彼女に信じさせてみせよう」          84

   召使いたちは再び出かけました。
   すぐに彼らは彼女を見つけました。
   そして彼女の肩に手を置き、
   彼女を通りまで連れて来ました。
   彼女はオリブリウスの前に来ると、
   すぐさま挨拶をしました。
   彼は彼女に名は何というかと尋ねました。
   彼女は「マルガレタです」と言いました。    88

   「乙女のマルガレタよ、
   お前は余の愛人になるのだ。
   もしお前が高貴な家柄の出なら、
   お前を余の妻に迎えよう。
   しかし、もしお前が奴隷の生まれなら、
   お前に黄金と財産を与えよう。
   そして余の愛人になるのだ、
   でき得る限り長く」              92

   その時、乙女は直ちに彼に
   答えて言いました。
   「私はキリスト教の信徒であり、
   洗礼盤で洗礼を受けた者です。
   私の主が称えられますように!
   私はその方にこの身を捧げたのです。
   他の如何なる人のためにも
   彼への愛を捨てるつもりはありません」     96

   「お前は十字架にかけられたイエスが
   生きていると信じているのか。
   もし彼が生きていると信じているのなら、
   お前を気違いだと余は思うぞ。
   彼の脇腹には端から端まで
   水と血が流れ、
   頭の上にはイバラの冠が
   載せられておった」              100

   天使が彼女に教えたかのように
   乙女は彼に答えました。
   「あの方はすべてのキリスト教徒を
   救済するため十字架にのぼられたのです。
   それからあの方は地獄に精霊を
   お送りになりました。
   貴方も最後はそこへ行くでしょうが、
   私たちを苦しみから助け出すためです」     104

   この娘と言い争っても
   自分には何の益にもならぬ、と
   そのサラセン人は考えました ――
   彼女の心はそれほどしっかりしていました。
   彼は彼女の考えを変えるため
   彼女の両手両足を縛り、
   それから牢獄に入れるよう
   従者たちに命じました。            108

   乙女のマルガレタはその夜
   牢獄に横たわっていました。
   そして翌日になると、
   領主の前に連れて来られました。
   「乙女のマルガレタよ」彼は言いました。
   「お前は余の宗教を信じよ。
   お前が信じているイエスは
   さっさと捨て去るのだ。            112

   そして余を信じて妻になれ。
   さすれば贅沢な暮らしができるぞ。
   報酬としてアンティオキアと
   アジアとをくれてやろう。
   絹織物や紫色のサテンが
   お前の衣服となるだろう。
   また、余の国の最高の食事を
   お前には食べさせるぞ」            116

   「そんな悪い助言は」彼女は言いました。
   「考えないことにします。
   私はその手で私をお造りになった
   イエス・キリストにこの身を捧げます。
   あの方はこの世界をすべて
   無からお造りになり、
   その後、地獄に精霊を
   お送りになったのです」            120

   その時、オリブリウスは言いました。
   「彼女が誰を信じているか、
   またなぜ彼女がこれほど熱心なのか、
   今、明らかにされるだろう。
   彼女の十人の主人のため
   彼女の足を縛って高く吊るせ。
   そしてお前たちが彼女は死んだと
   思うまで、鞭で打つのだ」           124

   召使いたちは命じられた通りにし、
   男の召使いも、女の召使いも、
   その娘がまだ生きていると
   みんなが思える限り、
   その娘を鞭やら杖やらで
   折檻しました ――
   崖から水が流れるように
   彼女の身体から血が流れました。        128

   その時、オリブリウスが口を開き、
   彼女の傍に立ったまま
   言いました。「乙女のマルガレタよ、
   この苦しみをお前は良いことだと
   思うのか。余の神々を信じ、
   お前の宗旨を変えるのだ。
   その白い肌を不憫に思え。
   連中がまたお前の血を流すぞ」         132

   「稲光のように輝かしい
   あの優しい乙女から
   ベツレヘムにてお生まれになった
   我が主が称えられますように!
   貴方は叔父であるサタンが
   教える通りにするがいい。
   この苦しみは牛乳のクリームより
   甘美だと私には思えるのです」         136

   するとオリブリウスが言いました。
   「彼女は恐ろしくないのか。
   お前たちが如何に彼女を苦しめても
   彼女は喜びとしか思っていない。
   さあ、お前たちの曲がった釘で
   彼女の皮膚を引き剥がすのだ、
   猟犬が皮膚と骨を見分けるように
   きれいに骨から剥がせ」            140

   呪われた泥棒たちはみな
   心の中でとても喜びました。
   王の命令に従うことを
   彼らは少しも躊躇いませんでした。
   拷問する者たちはマルガレタの前に
   連れて来られるや否や、
   曲がった鉄の釘で彼女の白い
   皮膚を引き剥がしました。           144

   彼女の傍に立っていた人々の
   数名がひどく悲しみ、
   ひどく泣きながら言いました。
   「マルガレタ、お願いだから、
   オリブリウス殿に従って
   彼の教えを信じなさい。
   お前のきれいな身体を哀れと思い、
   これ以上、苦しみに耐えてはいけません」    148

   マルガレタは傍に立っていた人々に
   答えて言いました。
   「貴方たちの助言には従いません。
   貴方たちの忠告は正しくないからです。
   私は十字架にかけられたイエス・
   キリスト様にこの身を捧げます。
   各人が味わう苦しみはすべて
   魂の食べ物なのです」             152

   マルガレタはイエス・キリストを見上げ、
   深々と溜め息をついて言いました。
   「お優しいイエス・キリスト様、
   私は貴方の教えを信じます。
   このように私を苦しめる人たちの為に、
   主よ、貴方のご慈悲をお願いします。
   彼らを赦し、私を苦しませて下さい。
   貴方は私の為にもっと苦しまれたのですから」  156

   その時、オリブリウスが言いました ――
   太陽と月が彼を覆いますように!
   「少女よ、本当に、お前の神に
   願い事をしても無駄だぞ。
   直ちに彼を捨て去り、
   我々の神々を信じるのだ。
   警告しておくが、彼の助けにも拘らず、
   お前の余命はすべて無くなるぞ」        160

   マルガレタはすぐに
   オリブリウスに答えました。
   「貴方が信じている神々は
   石のように口がきけません。
   貴方は私の骨から皮膚を引き裂く
   力は持っておいでですが、
   私から私の魂を奪う力は
   持っておられません」             164

   するとオリブリウスが言いました。
   「もしお前が直ちに
   お前の神を捨てなければ、
   死刑に処せられることになるぞ。
   しかし、先ずお前を牢獄に入れ、
   たっぷり苦しめてやろう。
   お前が信じている神は
   お前を助けることなど出来ぬ」         168

   その時、マルガレタは穏やかで
   かつ静かな言葉で答えました。
   「哀れな人、貴方がどんなに
   私を脅そうとも、確かに、
   私はここで主の御旨を甘受する
   覚悟ができています。
   そして貴方はその悪い行い故に
   地獄の苦しみへ落とされるでしょう」      172

   人々は怖くてオリブリウスを
   見ることが出来ませんでした。
   「マルガレタを連れて行け」彼は言いました。
   「そしてしっかり足かせをかけ、
   一番深い牢獄に彼女を
   投げ入れるのだ。
   そして彼女の不届きな言葉のため
   そこで彼女の身体を冷やさせよ」        176

   マルガレタが骨から皮膚を
   引き剥がされても、
   オリブリウスはその娘に少しも
   憐れみを覚えませんでした。
   マルガレタは敵の中にとても
   しっかり取り囲まれており、
   イエス・キリストの助け以外には
   何の助けも得られませんでした。        180

   マルガレタは足かせをかけられ、
   牢獄に連れて来られました。
   彼女の心の中にはいつも天の
   イエス・キリストがいました。
   そして ―― 彼が称えられますように ――
   彼は乙女のことを忘れていませんでした。
   天の王宮から彼女に慰めが
   もたらされたのです。             184

   マルガレタが牢獄に
   入れられて間もなく、
   午前中のかなり早い時間に
   天から一人の天使がやって来ました。
   そしてマルガレタが受け取るようにと
   一本の杖を彼女に与えました、
   神がのぼられた十字架に
   倣って作られた杖を。             188

   それからその天使は
   美しいマルガレタに言いました。
   「たいそう力のある
   我が主イエス・キリストは
   汝を敵どもから見分け、
   汝の正義を守るため、
   汝が悪魔と戦えるように
   この杖をお与えになったのだ。         192

   乙女のマルガレタよ」彼は言いました。
   「怖がらなくてもよい。
   汝の席は天国に作られている、
   とても輝かしい我が主の前に。
   今夜、汝の身に起った喜びを
   語ることが出来る舌は
   この世には存在しないし、
   また、視力も存在しない」           196

   天使は再び天の楽園へと
   帰って行きました。
   そして乙女のマルガレタは
   穏やかな声で
   優しいイエス・キリストと
   彼の七つの名前に感謝しました。
   主が至福の天国からそのような慰めを
   送って下さったからです。           200

   その時、乙女のマルガレタは
   自分の傍を見て、一匹の忌まわしい
   竜が牢獄の隅からすべり出て
   来るのに気づきました。
   彼の目はとても恐ろしく、
   口は大きく開いていました。
   マルガレタはどこにも逃げられず、
   そこに留まるしかありませんでした。      204

   乙女のマルガレタは
   石のようにじっと立っていました。
   そしてその忌まわしい竜は
   彼女の方に近づきました。
   そしてその汚い口で彼女を捕らえ、
   彼女の身体と骨を呑み込みました。
   が、たちまち竜は破裂してしまいました ――
   彼女はまったくの無傷でした。         208

   乙女のマルガレタは
   竜の上に立ちました。
   彼女の心は浮き立ち、
   喜びでいっぱいでした。
   「イエス・キリスト様が称えられますように!
   あの方の御力はとても素晴らしい。
   あの竜は十字架の御力によって
   殺されたのですから」             212

   乙女のマルガレタは
   その竜から離れました。
   その時、牢獄の隅にもっと悪い奴が
   座っているのが見えました。
   彼の膝には手があり、足指の一本
   一本には目がついています ――
   これほどぞっとする者は
   この世にはいないでしょう。          216

   彼女は手に十字架を持って
   その悪魔に近づきました。
   そしてイエス・キリストの御力により
   頭飾りで彼を縛りました。
   そして彼のこめかみを捉え、
   彼をこづきまわしました。
   そして一方の足を彼の首にのせ、
   彼を地面に投げ飛ばしました。         220

   「この汚い奴、忌まわしい悪魔よ、
   今すぐ私に答えなさい、
   お前の主人はいったい誰ですか、
   私を苦しめるために誰が
   お前をここへ送ったのですか。
   私は生まれてこの方こんなに
   ぞっとする者は見たことがない」        224

   「お嬢さん、後生ですから
   お手柔らかに願います。
   私の首にある貴方の足を
   少し上げて下さい。
   私は海の上や陸の上を
   広く旅してきましたが、
   これほど強く縛られたことは
   今まで一度もありません。           228

   貴方が殺した竜の
   ルフィンは私の兄弟でした。
   彼は生きていた時、
   驚くべき不思議を行いました。
   夜は泥棒たちに盗みを働かせ、
   昼は大口を開けて横たわり、 
   そして彼らの働きに対して
   とても大きな悪で報いたのです。        232

   彼は竜の姿になって
   貴方の許へ送られました。
   貴方の名声を台無しにするか、
   貴方を殺すか、するためです。
   しかし、彼は粉々に粉砕され、
   私は縛られてしまった。
   一人の乙女に打ち負かされたのです。
   我々の力は何と小さいことか!         236

   私の名はベルギスと言います ――
   嘘をついても始まりません。
   私はこれ以上この苦しみには
   決して耐えられません。
   この世には私の道はないので、
   私は風と共に飛んで行こう。
   そしてこの目で見る者すべてを
   滅ぼそうと努めよう。             240

   あそこに子供を産んだ
   一人の女が見える。
   私はワシのように
   すばやくそこへ行こう。
   もしその子が神の恵みを受けていなければ、
   その足か腕を不具にするか、
   産褥にいる母親自身を
   無き者にするかしよう。            244

   もし貴方がすべてを知ろうと思うなら、
   貴方なら十分できるでしょうが、
   あらゆる通りをご覧なさい。
   至る所にそれが見つかるでしょう。
   後生ですから、どうか
   私を鋼鉄で縛って下さい。
   私が決して貴方の家族と
   戦わなくてすむように。            248

   賢者のソロモンは
   彼が生きていた時、
   我々を真鍮の樽に入れ、
   それを崖の下に埋めました。
   そして彼がこの世を去ると、
   人々は我々を外に出させました。
   バビロンの人々は
   その真鍮の樽を割ったのです。         252

   彼らは黄金がたくさん見つかると思い、
   我々をみな外に出したのです。
   ある悪魔は風よりも速く、
   ある悪魔はノロジカより敏捷でした。
   さらにこの世には
   一万匹以上の悪魔たちがいます。
   彼らはイエス・キリストを信じる者たちを
   みなひどく苦しめようとしています」      256

   「お黙りなさい、この悪霊め、
   さっさと地獄へ降りなさい。
   お前は決して多くの人間を殺すほど
   大胆であってはならない。
   私は主イエス・キリストにお前の力を
   無くすようお願いしよう」
   すると、彼は石が井戸に落ちるように
   大地の下へ落ちて行きました。         260

   その翌日、
   正午を過ぎた頃、
   オリブリウスは彼女を
   牢獄から出すよう命じました。
   すると、天国の精霊が直ちに
   彼女の許へやって来ました。
   彼女の手にはキリストがのぼられた
   十字架が握られていました。          264

   その時、オリブリウスが言いました ――
   キリストが彼に災いを与えられますように!
   「乙女のマルガレタよ」彼は言いました。
   「余の助言を受け入れるか。
   余の側女になる気はないか。
   なってくれたら、衣服や食事を与えよう。
   すぐに余の神々を信じるのだ。
   さもなくば、お前は命を失うことになるぞ」   268

   「貴方が信じておられる
   神々は口をきかれません。
   彼らはどの神も
   敵意と罪でいっぱいです。
   彼らは元々サタンの一族であり、
   地獄から出て来たのです。
   だから貴方は最も良く生きたいと思っても、
   地獄へ行くことになるでしょう。        272

   私は貴方に、全世界をお造りになったイエス・
   キリスト様をお信じになるようお勧めします。
   万物を無からお造りになった
   父と子と精霊の神を。
   そしてその大切な血で
   私たち全員を贖われた方を。
   彼を信じてキリスト教徒になり、
   その邪な考えをお捨てなさい」         276

   すると、オリブリウスは
   高座にかけたまま言いました。
   「余は余が最初に選んだ
   神々を信じておる。
   なぜなら余の神々は本物であり、
   お前のは嘘つきで偽物だからだ。
   お前が彼を信じている限り、
   お前には安らぎは来ないぞ」          280

   乙女のマルガレタは
   その場で答えました。
   「イエス・キリスト様が称えられますように!
   あの方の助けはとても慈悲深いので、
   貴方がどれほど怒り狂おうと、
   私は少しも怖くはありません。
   私は私たちのために血を流されたイエス・
   キリスト様だけを信じます」          284

   オリブリウスはすぐに
   マルガレタをののしり始め、
   拷問する者たちに言いました。
   「ある方法をお前たちに教えよう。
   油を手に入れて沸騰させ、
   彼女にその上を走らせるのだ。
   もしその魔女が考えを変えなければ、
   お前たちは彼女を焼き殺せ」          288

   刑吏たちは出て行きました ――
   彼らに悲しみが降りかかりますように ――
   そして火に油をかけました。
   彼らはもはやじっとしていませんでした。
   彼女の美しい身体の上から
   油を滑り落としました。
   イエスは天使たちを地上へ送り、
   彼女の傍に立たせました。           292

   天使たちは何物も彼女を傷つけないよう
   彼女のすぐ傍に立ちました。
   そして神様ご自身のためを思い
   彼女の心はすこぶる丈夫でした。
   オリブリウスは彼女に改宗させようと
   あれこれ努めましたが、
   彼女はアダムとエヴァを造られたイエス・
   キリストを決して捨てませんでした。      296

   「娘よ」オリブリウスは言いました。
   「余の助言を受け入れるか。
   マフーン神を信じ、
   お前の神を捨てないか。
   本当に、お前が考えを変えなければ、
   お前の悲しみを目覚めさせるぞ。
   お前は今日、お前の神のために
   死をこうむることになるぞ」          300

   マルガレタは穏やかに、かつ
   やさしい声で彼に言いました。
   「もし私があの方のために死ぬば、
   私は彼の思し召しに叶うでしょう。
   たとえ貴方が私の命を奪っても、
   私は貴方の方には向かいません。
   いくらひどい拷問を加えても、
   私の魂を悩ますことは出来ないでしょう」    304

   オリブリウスはその娘の敵意に
   ほとんど気が狂いそうでした。
   彼は大きな悪事をあれこれ
   思案し始めました。
   そして水がいっぱい入った樽に
   彼女を沈めるように命じ、
   もし彼女が考えを変えなければ、
   樽の中で彼女を溺れさせよと言いました。    308

   拷問を加える邪悪な連中は ――
   彼らが高く吊るされますように ――
   マルガレタが死ぬように
   さっそく仕事に取りかかりました。
   彼らはせっせと水を樽に
   縁までいっぱい満たし、
   大急ぎでその中にマルガレタを
   沈めようとしました。             312

   その時、その乙女は、とても
   気高いマルガレタは言いました。
   「我が主イエス・キリスト様 ――
   あなたが称えられますように ――
   もしこれがあなたの思し召しであれば、
   私が見ているこの水で
   あなたの名において
   私に洗礼を施させて下さい」          316

   刑吏たちは彼女を
   骨も皮膚も丸ごと捕まえ、
   樽の中で溺れさせようとしました ――
   彼らはうまくやれると思いました。
   その時、一人の天使が飛んで来て
   彼女を勇気づけました。
   優しいイエス・キリストが彼女を
   励ますために送られたのです。         320

   そこにいた人々はみな
   天使が飛んで来て、みんなが
   見ている前でマルガレタを
   水の中から出すのを見ました。
   そして樽が粉々に砕け散り、
   人々は逃げ出しました。
   国王のオリブリウスはそれを見て、
   とても悔しがりました。            324

   人々は樽が粉々に
   砕け散ったのを見ると、
   すぐさま大急ぎで
   マフーン神を捨て去り、
   五千と五人の人々が
   イエス・キリストを信じました。
   が、オリブリウスは彼らを生きたまま
   連れ帰り、全員殺させたのです。        328

   刑吏たちがオリブリウスの
   前へ走って来て言いました。
   「殿、我々が企てたことは
   すべて無駄に終わりました。
   太陽のように輝く
   生き物たちが飛んで来て、
   我々が加え得るどんな危害からも
   彼女を助けるのです」             332

   オリブリウスは気が触れんばかりになり、
   如何なる楽しみも彼を感動させませんでした。
   彼は一人の刑吏を呼び出しました。
   彼は足萎えなどではなく、
   とても力強い死刑執行人で、
   名はマルクスと言いました。
   オリブリウスは彼ならマルガレタに
   打撃を与えられると思いました。        336

   「マルクス」オリブリウスは言いました。
   「さあ、大急ぎで行ってくれ。
   あの魔女を町から連れ出し、
   直ちに彼女を殺すのだ。
   お前の剣で彼女の首を斬り落とし、
   血が流れ出るにまかせよ。
   今日以降、二度と彼女が余に反抗する
   ことが出来ないようにするのだ」        340

   マルクスはマルガレタを捕まえ、
   町から彼女を連れ出しました。
   少し離れた丘の近くに
   人の首を刎ねる場所があったのです。
   彼は言いました。「娘よ、私がお前の
   頭髪を刈り、その褐色をしている
   頭髪を血まみれにしてくれる間、
   身をかがめておれ」              344

   その時、歩ける者はみなマルガレタに
   ついて処刑場まで行きました。 
   彼女の処刑を悲しんだ人は
   たくさんいました。
   雷鳴が轟き始め、太陽は
   すっかり紫色になりました。
   人々は地面に倒れ、
   喜びも悲しみも分かりませんでした。      348

   そこへ天から一人の輝かしい
   天使がやって来て
   言いました。「マルガレタよ、
   汝に神の御加護がありますように!
   天のイエス・キリスト様が
   私にお言葉を託されました。
   汝は天国の至福の中で
   王冠を授けられるであろう、と」        352

   とても善良な娘であった
   優しいマルガレタは
   天使の声を聞くと、
   意識を取り戻しました。
   彼女は天使が持って来た知らせを
   心臓の近くに置くと、
   ひざまづいて
   このように言いました。            356

   「私にその知らせを送られたイエス・
   キリスト様が称えられますように!
   あの方は十字架の上で死に、
   私たちを縛めから解放された方。
   主よ、あなたにお願い致します、
   私の祈りをお聞きとどけ下さい。
   この国の罪深い者たちのために
   私がお願いすることを。            360

   それから神様の乙女である
   優しいマルガレタは
   牢獄で竜が言った言葉を
   思い出しました。
   悪魔たちがこの世へ来て
   子供を産んだ女や
   産褥に横たわる女たちを
   ひっさらおうとしている、と。         364

   その時、マルガレタはとても
   寛大なイエスに祈りました。
   「もしどこぞの女が陣痛に苦しみ、
   何度も私を呼びましたならば、
   あなたが私たちみなを解放するため、
   そのお身体をおかけになった
   十字架のお力によって、主よ、
   喜んで彼女の出産をお助け下さい。       368

   私の受難について聞いたり、
   読んだりする人々や、
   私の名において何かの
   慈善行為をする人々には、
   我が主、イエス・キリスト様、
   どうか彼らに栄誉をお与え下さい。
   主よ、どうか彼らに報酬として
   天国の甘美な至福をお与え下さい」       372

   すると、そこへ三位一体に御座す
   イエス・キリストの声が来て
   乙女のマルガレタに言いました。
   「汝に神の祝福があるように!
   汝が私に頼んだことについては
   その願いを聞きとどけよう。
   そして汝は天国の至福の中に
   私と共に住むであろう」            376

   あの乙女のマルガレタは
   至福の天国から聞こえてきた
   優しいイエス・キリストの
   あの快活な声を聞くと、
   マルクスの前にひざまづき、
   両膝を同じように地面につけ、
   自分の首を七回以上
   斬り落とすよう彼に言いました。        380

   彼女は大きな声でマルクスに言いました ――
   彼女は思い止まりませんでした。
   「マルクス、私の首を刎ねなさい。
   私は貴方の罪を赦します」
   「俺なら赦さないだろう」彼は言いました。
   「たとえこの世界をくれると言われても。
   お前が信じている主は
   お前と話しをしたんだな」           384

   「マルクス」マルガレタは言いました。
   「これだけは言っておきましょう。
   貴方は私の首を刎ねなければ、
   助かることは出来ないでしょう。
   だから一思いに刎ねなさい。
   イエス様が下さると言われた
   至福を、貴方も戴けるように
   私が頼んであげましょう」           388

   マルクスはイエス・キリストのために
   考えを改めました。
   彼は自分が目にした奇跡の故に
   より良い宗教へ改宗したのです。
   それで、彼女を害せねばならないことを
   心の中で悔やみました。が、
   それでも夕方になる前に
   彼は彼女の首を斬り落としました。       392

   彼は仕事を終えるや否や
   その場にひざまづき、
   私たちのために傷を負われた
   あの方に慈悲を乞いました。
   すると、間もなくして
   天使たちが天からやって来て
   すべての喜びが見出される所へと
   マルガレタの魂を運んで行きました。      396

   神の宗教を信じる騎士の
   テオドシウスと、
   その美しい娘の面倒を見ていた
   アジアの乳母の二人が、
   彼女が処刑された所で
   そのきれいな身体を貰い受けました。
   そして翌日、たいそう厳かに
   その遺体を埋葬しました。           400

   他の多くの人々と同じように
   マルガレタを埋葬すると、
   騎士のテオドシウスは
   彼女の前から立ち去りました。
   病にかかった者たちはみな
   そこを訪れようとしました。
   イエスがその霊験により
   彼らを苦しみから救ったからです。       404

   騎士のテオドシウスは
   後に彼女の伝記を書かせ、
   それが今や世界中に名を知られ、
   有名になっています。
   彼女は如何に争うことなく
   穏やかに受難に耐えたことか、
   そのことを聞くのは乙女や
   妻にとって喜びであります。          408


   我々の魂を救済するため
   十字架にかけられイエス様が
   我々を地獄の苦しみから守り、
   悲しみから助け出して下さいますように!
   そして我々を七つの大罪から
   守るための恩寵と、
   聖マルガレタが浴している
   大きな喜びとを与え給え。 アーメン     412